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がん休眠療法・がん共存療法とは
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がんの第4の治療法として最近,注目され,支持する患者も増えているのが,「がん休眠療法」または「がん共存療法」と呼ばれる治療法です。
既存の化学療法は,あくまでも患者が副作用に耐えられる限界量を投与することが標準となっています。
その投与法の背景には「腫瘍を縮小させ,治療効果をあげるためには投与量が多いほどよい。」という考え方があります。
そのため,患者は強い副作用に苦しみ,大幅なQOLの低下を招き,その間の肉体的,精神的な苦痛は相当なものがあります。
これに対して,「がん休眠療法」とは「無理にがんを消滅させなくとも,生きていく上で支障がない程度にがんの増殖をおさえればよい。」という発想です。
がんはある程度大きくならなければ,普通の人と変わらず生活ができます。事実,老衰でなくなった人の身体を解剖してみると,がんが発見されるということはよくあることで,これを「天寿がん」と呼ぶ人もいます。
そこで,抗がん剤の投与量を抑え,副作用を軽減しながら,「がんが消滅はしないが増殖もしない=不変」という状態を長く保つという治療法が考案され,「がん休眠療法」「がん共存療法」と呼んでいます。
日本で,この治療法を開発し「がん休眠療法」として提唱したのは,前,金沢大学がん研究所在籍,現在,化学療法研究所部長の高橋豊医師です。
ここで,彼の書籍を紹介すると共に,この書籍を参考に「がん休眠療法」とは何かを解説していきたいと思います。
このHPで紹介できるのは概略なので,詳しくお知りになりたい方は書籍の購入をおすすめします。 |
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治療手順
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この治療法では,分子標的薬を中心として使用されます。
このタイプの抗がん剤はがんに対する殺傷力は低いものの,副作用が少なく,がんの増殖を抑えてくれるので,長期投与が可能であり,この共存療法法のねらいにあった薬剤なのです。
その手順としては,まず抗がん剤を少量から投与し,がん細胞の分裂や増殖の様子,さらには患者の副作用の程度を観察します。
進行が止まらない場合は増量して再度投与します。 |
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この作業を繰り返すわけですが,およそ5~6回程度で,適量を定め,その投与で,長期間にわたり,抗がん剤投与を継続していきます。
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抗がん剤の臨床試験と標準治療
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臨床試験の方法
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ここでは「共存療法」ではなく,化学療法で行われている主流となっている「標準治療」はどのように決定されるのか説明したいと思います。標準治療を確立するためには,臨床試験に裏付けられられたエビデンス=科学的根拠が必要です。
この臨床試験はどのように行われているか,簡単に説明します。
まず,第1相試験で,副作用に耐えられる限界値である最大耐用量を決定し,それより,少ない量が至適投与量として決定されます。少ない量といっても副作用に耐えられる限界値に近い量といえます。
第2相試験で,どれだけ腫瘍が縮小したかチェックされます。そして,第3相試験でこれまでを上回る生存期間が証明されると,その薬剤と治療法が標準治療となります。
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標準治療の問題点
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まず,標準治療では,腫瘍を縮小させるために,副作用に耐えうる限界値に近い量を投与します。その結果,患者は強い副作用に苦しみます。次に投与量は,身長と体重から画一的に割り出したものであり,個人差が考慮されていません。
そこで,抗がん剤の分解能力が弱い体質の人ほど副作用が強くでます。副作用で死ぬ場合もあります。
さらに,延命効果のエビデンスがえられたと言っても前の治療法より,数ヶ月の延命でも,効果があったとして認められます。
やはり,ここで重要なのは,高橋医師も語っていますが,「延命の質」,すなわち「人間としていかに人間らしくQOLを下げずに生きられるか。」ということです。
問題は,副作用に苦しみながら,大幅にQOLを低下させ,1年にも満たない延命をどうとらえるかです。
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共存療法の2つの柱-継続治療と個別化治療
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共存療法では腫瘍の縮小はねらわず,長期にわたり,継続した投与を行い,長期生存を目指します。また,薬剤の種類だけでなく,投与量も個人差を重視します。
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継続治療のため毒性(副作用)をもとに投与量を決定
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共存療法の中心となるコンセプトは継続治療と個別化治療です。標準治療における抗がん剤の投与量は身長と体重から割り出した画一的なものです。
それに対して,休眠療法では,抗がん剤の毒性をもとに,投与量を決定していきます。抗がん剤の毒性グレードは0=毒性なしから5=死亡まで5段階にわかれています。(下図参照)
抗がん剤治療において特に問題視される毒性が白血球と血小板の減少であり,これが下がると感染症の肺炎や出血がみられるようになり,時に生命の危険に関わります。
そのような点を考慮し,長期にわたり継続できる投与量は毎日や週1回の投与ではグレード1,2週間に1回の投与ではグレード2までとしています。
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抗がん剤の毒性(副作用)グレード表
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副作用
チェック項目 |
毒性グレード |
0 |
1 |
2 |
3 |
4 |
毒性なし |
軽度 |
中等度 |
重度 |
生命を脅かす |
白血球
(×10μl) |
3.3-8.8 |
<3.3-3.0 |
≧2.0-<3.0 |
≧1.0-<2.0 |
<1.0 |
血小板
(×10μl) |
130-350 |
<130-75 |
≧50-<75 |
≧10-<50 |
<10 |
ヘモグロビン(g/dl) |
13.5-17.0 |
<13.5-10 |
8.0-<10.0 |
6.5-<8.0 |
<6.5 |
嘔吐 |
なし |
投与前に比べ
1日当たり1回多い |
投与前に比べ,1日当たり2~5回多い |
投与前に比べ,1日当たり6回以上多い。
または静注補液が必要 |
集中治療を要する生理機能状態 |
下痢 |
なし |
投与前に比べ<4回/日の排便回数増加 |
投与前に比べ,4~6回/日の排便回数増加,または夜間排便 |
投与前に比べ≧7回/日の排便回数増加,または失禁,脱水に対する輸液を必要とする |
集中治療を要する生理機能状態、または循環動態の虚税 |
脱毛 |
なし |
軽度 |
著しい脱毛 |
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治療の目的を「腫瘍の縮小」に置くと,標準治療のような投与量にしなくてはなりません。すると今度は毒性が強く出て,しかもがん細胞が薬剤耐性を身につけ,継続的な投与が不可能になります。
ところが,治療の目的を「腫瘍の不変」に置けば,グレード1かグレード2に抑えた投与量で長期にわたり継続が可能となるのです。そして「腫瘍の長期不変」も維持できるのです。
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個別化治療のため毒性(副作用)をもとに抗がん剤の投与量を一人ひとり変えていく
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繰り返しますが標準治療の問題点の一つは,個人差を考慮せず,身長と体重から割り出した投与量で決定していることです。
すなわち,個人差,体質の差というものが考慮されていません。
酒に強い人と弱い人がいるように,薬剤を分解し,代謝する酵素のはたらきの違いも個人差が大きく,一説ではその差は5倍から50倍もあるといわれています。したがって,その副作用の開きもそれくらい大きいものとなるということでもあります。
これはいいかえれば,同じ量の薬剤を投与しても,薬剤の血中濃度が大きく異なっているということを意味します。
そこで,たとえばグレード3あるいはグレード4になる患者はグレード1あるいはグレード2に相当する血中濃度になるように投与量を減らし,逆にグレード0の患者はグレード1あるいは2に相当する血中濃度になるように,投与量を増やすのです。
これにより,患者が副作用に苦しむことはなくなり,安全性も確保され,継続的な治療により,生存期間も長くなるのです。
ただし,この点に関して,高橋豊医師は「臨床試験による証明がこれから必要である。」と述べています。
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