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食道がんの治療
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食道がんによる死亡者は約1万人で,50代の前半から,発症率が高くなっています。
このがんは男性の方が女性よりも罹患率が高く,この原因は,飲酒や喫煙量の差と考えられています。ただし,この差は近年縮小しています。
胃や大腸などの消化管は漿膜と呼ばれる丈夫な膜でおおわれています。
しかし,食道にはこのような漿膜がないため,がん細胞は周囲の臓器へ浸潤しやすく,血管やリンパ管を通して転移する場合が多いといえます。
食道がんの90%以上は粘膜層から発症する扁平上皮がんで,他は粘液を分泌する腺から発症する腺がんです。
このがんの手術は,これまで胸を切り開く開胸術が主流であり,6〜8時間もかかる大がかりなもので,肉体的負担も大きく,術後の後遺症や合併症に悩まされるという問題もありました。
このような理由から,手術では,胸腔鏡下手術が行われるようになり,患者の負担が軽くなっただけでなく,手術に代わる治療法として,抗がん剤と放射線を組み合わせた化学放射線も普及しはじめ,良好な成績をあげています。
また,術前に複数の抗がん剤を投与する術前化学療法を行うことで,生存率などの治療成績が大きく向上しています。
このように,食道がんの治療において,近年,抗がん剤治療の果たす役割はより大きなものになっているといえるでしょう。
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治療のアルゴリズム
日本食道学会 (食道癌治療ガイドライン)より |
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病期 |
がんの進行度 |
0期 |
がんが粘膜のなかにとどまっている状態。 |
I期 |
がんが粘膜にとどまっている。または粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器などに転移はない。
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II期 |
がんは筋層,または外膜に及んでいる状態,あるいは近くのリンパ節のみに転移している。 |
III期 |
がんが食道の外膜や周囲の組織に広がっている。食道付近のリンパ節か離れたリンパ節に転移している。
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IV期 |
A |
周囲の臓器か,少し離れたリンパ節に転移がある。
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B |
他の臓器や胸膜,腹膜にがんが認められる状態。 |
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食道が粘膜にとどまっている状態であるならば,内視鏡的粘膜剥離術(EMR)や内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)によって根治が可能です。
食道がんがT期〜V期の場合,開胸・開腹手術か,化学放射線が選択されます。現在では手術の場合,術前の抗がん剤治療が標準となっています。
化学放射線療法は抗がん剤と放射線を組み合わせた治療法で,その効果は外科手術に匹敵するとして,評価されはじめた方法です。
周辺の臓器に転移があるV期〜W期Aでも,術前の抗がん剤治療と手術が実施されます。あるいは放射線か化学放射線が選択されます。
少し離れたリンパ節に転移があるW期Aは手術での治療が困難になるため,化学放射線が中心となります。
遠隔転移のあるW期Bでは,化学放射線か抗がん剤治療をおこないます。
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食道がんの抗がん剤治療
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食道がんの術前抗がん剤投与
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U期とV期の食道がんでは,術前の抗がん剤投与が標準的に実施されます。
この治療法の目的は,画像診断では見えないような微小転移しているであろうがん細胞を殺傷すると共に,腫瘍も縮小させ手術が確実にできるようにすることです。
食道がんのU期とV期を対象とした大規模な臨床試験の結果,術前に抗がん剤投与をしてから手術をしたほうが,手術だけの場合より予後がいいことが立証されています。
その結果,2008年から,術前化学療法が,U期とV期の食道がんの標準治療となっています。
術前化学療法では,フルオロウラシル(5−FU)とシスプラチンの2剤を併用します(FP療法)。
現在,術前の抗がん剤投与の効果をさらに高めるために,FP療法にドセタキセル(タキソテール)をくわえた3剤併用(DCF療法)による臨床試験がおこなわれています。
副作用として,脱毛,吐き気,口内炎,全身倦怠感などがあり,腎障害と骨髄抑制もおこります。
術前の抗がん剤投与は手術を目的としたとした補助療法ですので,副作用をしっかり抑えることが重要です。
日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)の食道がんグループでは,「術後補助としてのFP療法」と「手術単独」との大規模臨床試験の結果,5年生存率では,大きな差はみられなかったものの,5年無再発生存率では術後抗がん剤投与群がすぐれ,特に,リンパ節転移の陽性群では「手術単独群」38%
に対し,「術後抗がん剤投与群」52%と大きく再発抑制効果が認められたと報告しています。
この臨床試験の結果からJEOGでは補助の抗がん剤治療が,術前と術後のどちらがより有効であるかを臨床試験で確認しました。
その結果無増悪生存期間あまりかわらなかったものの,5 年全生存率は「術後抗がん剤投与群」38.4%に対し,「術前抗がん剤投与群」60.1%と大きな差が確認されました。
さらに「術前抗がん剤投与群」では手術の根治率が向上することが判明したため,術前抗がん剤投与+手術が病期 II期,III期の胸部食道扁平上皮癌に対する新しい標準治療として推奨されています。
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食道がんの化学放射線治療
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食道がんの手術では,患者の負担も大きいうえに,食道部を切り取り,胃を直接つなぎ,術後,胃酸の逆流が起こる場合もあり,さらに喉頭も切除した場合,発生もできないという大幅なQOLの低下があります。
そこで,この食道を残したいと希望する患者も多く,この治療法は手術ができるT期からV期の食道を残すことを希望する患者と,手術ができないW期の患者を対象として実施されます。
この化学放射線療法は日本人に多い扁平上皮がんに効果があるとされています。
T期では根治が可能で,U期〜V期では,手術と同等の効果があるとされています。また,手術できない患者のなかにも根治する例があるといわれます。
日本臨床腫瘍研究グループの臨床試験では,治療が困難な切除不能・再発食道がんを対象に化学放射線療法を行ったところ,がんが消失した患者が15%,2年生存率が31.5%という成績でした。
さらに別の臨床試験ではがんが消失した割合が33%,3年生存率23%という成績が得られ,手術不能な食道がん,再発食道がんに対する化学放射線療法の有効性が裏付けられています。
ここで,注意しなければならないのは,この治療法では腫瘍が残存する場合や再発も多いということです。
2000年から実施されたU〜V期を対象とした化学放射線の臨床試験(JCOG9906)では,がんが消失した割合は62%,3年生存率45%という高い数値が出て,有効な治療法であると評価されました。
しかし,追跡調査を行うと完全に消失した状態が持続したのは31%で,全体の2/3に残存腫瘍や腫瘍の再発があり,それを切除する救済手術が行われていたのです。
再発した場合はサルベージ手術(救済手術)とよばれる手術で治療しますが,放射線照射で組織がダメージを受けているため,肺炎や縫合不全などの合併症が起こりやすくなり,重篤化する傾向があります。
また,化学放射線療法では食道を温存できるメリットと引き換えに,放射線照射と抗がん剤投与が同時に行われるため,それぞれの副作用が強くでるというデメリットを覚悟しなければなりません。
個人差がありますが,照射の副作用として,照射を受けた部位の痛みや,食物を飲みこむときのつかえるような違和感もみられます。
抗がん剤の副作用としては,吐き気・嘔吐,下痢などの消化器症状や骨髄抑制による白血球減少や血小板減少,腎機能障害などがみられます。
放射線照射の早期の副作用としては,皮膚炎,食道炎,急性肺炎などの他,稀ではあり,また,数カ月以降の晩期障害として,食道穿孔,出血,食道潰瘍,椎骨圧迫骨折などが起こることがあります。
さらに,2〜5年たってから起こる間質性肺炎,胸水貯留なども,稀な症状ではありますが,対症療法だけでは対応できず,進行すると死に至るケースも出てきます。
このような副作用が起こるというデメリットもよく理解し,化学放射線療法を希望する患者は,医師と十分に相談した上で,自分にあった治療法を見つけることが大切です。
現在,化学放射線が普及してからは,放射線治療を単独で実施することはほとんどなくなりましたが,手術ができない場合の緩和療法として行われることがあります。
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食道がんの抗がん剤治療(fp療法)
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食道がんでは,遠隔転移のあるW期と,術後に再発した場合のみ,抗がん剤投与が単独でおこなわれます。
この治療で使用される抗がん剤は術前化学療法や化学放射線療法と同じ5‐FU(フルオロウラシル)とシスプラチン(FP療法)です。
この治療法は,食道がんの抗がん剤治療では最も有効とされている治療法です。
5-FU(フルオロウラシル)は代謝拮抗剤であり,40年以上も前から使用され,多くのがん腫に適応する抗がん剤です。
シスプラチンは腎臓障害をおこしやすいので,腎機能が低下している場合にはネダブラチン(アクプラ)を代用します。
FP療法に効果のない場合や転移性の食道がんでは,ドセタキセル(タキソテール)を使用します。
また,日本では,分子標的治療薬のセツキシマブ(アービタックス)は大腸がんに使用されていますが,海外では食道がんに対する臨床試験がおこなわれ,その治療成績から承認が期待されています。
このfp療法に放射線治療を併用するFP-rad 療法は,欧米では手術と同等の成績が得られると報告されており,日本でも,国立がん研究センターなど,この治療法の採用をを検討している施設もあります。
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